約 30,346 件
https://w.atwiki.jp/gumdamblackcat/pages/135.html
ロンバルディア「地球圏の憲兵」 艦長:水銀燈 副艦長:セルゲイ・スミルノフ MS隊隊長:堂ヶ島少佐 MS部隊:朝倉涼子、サトー、穴子さん、ピータセン、ソーマ・ピーリス ジュピトリス アリー・アル・サーシェス
https://w.atwiki.jp/sos_aisare/pages/50.html
開催日程 2008年10月25日(土)13時~26日(日)12時(インターバルなし) 参加キャラ 涼宮ハルヒ 長門有希 古泉一樹 朝倉涼子 キョン 支援動画未確定 朝比奈みくる 支援動画未確定 鶴屋さん 休息中
https://w.atwiki.jp/ghosthunt/pages/46.html
「ナウマクサンマンダ・バザラダンカン・・・・ナウマクサンマンダ・バザラダンカン」 不動明王呪・・・・麻衣が使うことの出来るただ一つにして初歩の退魔法を口早に唱える。続いて九字を唱えながら指剣を組んで切る。 「臨・兵・闘・写・皆・陣・烈・在・前!」 渋谷サイキックリサーチ。 心霊調査を目的とする渋谷に一等地を構える事務所にアルバイトとして雇われてから様々な事件をくぐり抜け、潜在的なESPであることが解ったりはしたがついこの間までふつうの女子高生だった麻衣に強力な退魔法は使えない。 せいぜいがぼ~さん。元高野山の坊主でもある滝川法生や巫女である松崎 綾子に教わったこの初歩の退魔術が使えるだけ・・・・ 「ふぅ~」 思わず大きく息を付き、額の汗を拭う。 発動の安定しないESPで調査員としてはともかく退魔師ではありえない彼女がそれでもこの退魔法に頼らざるを得ない場面はたびたびあったし、それに救われたことも一度や二度ではない。 「まったく・・・・なんだってのよ」 それでも調査中の場合ならともかく、こんな学校の帰り道、バイトへ向かう途中に霊に、それも浮遊霊ではなく人を襲うような霊に出くわしたのは初めての経験だった。 ――――もう気配はないけれど・・・・―――― 自分の退魔法程度で退散できるような霊がこんな夕方とは言え日中に人を襲う? 麻衣はすっきりしないものを感じながらもバイトに行く際にいつも使う駅への道を道を恐怖にかき立てられるように急いだ。 ガタン・・・・ゴトン・・・・ ――――すごい人・・・・まったく、ついてないよね―――― いざこざに巻き込まれたせいで時間帯が退勤時間にぶつかってしまい、電車内はすごい人混みだった。 サラリーマンや学生を含む多くの人の波にもまれながら麻衣はうんざりする。それでも先ほどの事件もあって人が多い方が安心してしまうのだから自分の現金さにうんざりする。 サワ・・・・ ――――え・・・・?―――― 駅を出てしばらくしたくらいだろうか? 不意に自分のお尻にスカート越しに何かが触れた。 サワ・・・・サワ・・・・ 最初は気のせいか偶然と思っていたが徐々にその動きは大きく強くなっていく。 ――――まさか・・・・痴漢・・・・なの?―――― 戸惑いながらも様子をう伺っていると間違いない。その手は調子にのって盛んに麻衣のお尻に制服のスカート越しに嫌らしいタッチで触ってくる。 ――――この・・・・―――― 怒りが麻衣を支配する。幾度か痴漢にあったことはあるが霊や化け物にさえ出会ったことのある自分がそんな輩に臆することなどありえない。 ――――やめてください!!―――― 先ほどの霊の件の苛立ちも手伝い、大きく口を開け怒りの言葉を紡ごうとして・・・・硬直した。 ――――え・・・・?―――― 動けない。声が出せない。 幾度か心霊事件に立ち会った際に経験したことのある金縛り。それを今麻衣が襲っていた。 ――――そんな・・・・?こ、こんな人混みで・・・・?―――― おそらく先ほどの霊だろう。やはり自分程度の退魔法では除霊などできなかったのか? しかしよほど強力な霊ならともかく霊に限らず心霊現象は非情にセンシティブ・・・・言い換えれば臆病だ。 こんな大勢の人のいるところで・・・・ ――――あ・・・・くっ・・・・ちょ、ちょっと・・・・―――― 麻衣が声も漏らさず、抵抗もしないのに調子に乗った手の動きが活発になる。 スカート越しにお尻の割れ目に沿って指を這わし、ゆっくりと掌を押し付け撫で回してくる。 ――――こ、この・・・・や、やめ・・・・―――― なのに、指一本動かせず小声さえも漏らせない。 手はますます調子に乗り、その動きが本格的になってくる。 ――――はっ・・・・くっ・・・・だ、だめ・・・・―――― スリスリ・・・・スルリスルリ・・・・ 触れるか触れないかの繊細なタッチで上下に、円を描くように、手慣れた動きが麻衣の官能を徐々に引き出してゆく。 ――――あ、ああ・・・・や、やだ・・・・コイツ・・・・う、うまい・・・・?―――― 金縛りによって身じろぎも出来ない状態で痴漢に為すがまま弄ばれる恥辱が麻衣の被虐心を煽り、知らず熱く艶やかな吐息が漏れる。 ――――はっ・・・・あ、ああ・・・・こ、こんな事って・・・・―――― 「フフフ・・・・抵抗しないんだね・・・・」 後ろから密着してくる。ショートカットの髪から覗く耳に唇が寄せられ低い声が囁く。 背中に感じる男の体熱、たばこ臭い吐息が耳をくすぐり、僅かに動く喉が小さく反り返る。 ――――こ、この・・・・ひ、人が動けないからって調子に乗って・・・・や、やだ・・・・―――― 押し付けられた腰、スカート越しにさえ感じる硬い感触。片手が吊革を掴む麻衣の脇の下を通りセーラ服の上から胸の膨らみを抑えた。ゆっくりと円を描き胸をまさぐりこねくり回してくる。 ――――は・・・・あっ・・・・こ、この・・・・ひ、卑怯者・・・・やっ―――― 男もどうやら麻衣の尋常でない無抵抗に気づき、訝しんだがこれ幸いと本格的に調子に乗り始めた。 小さく体が震える。いつの間にかスカートの中に入ってきた男の手の平が麻衣の足の間、太股の内側をゆっくりと撫でさする。 ――――こ、この・・・・ど、何処触って・・・・ふあっ・・・・や、やだ・・・・やだやだ・・・・こ、こんな男に・・・・ふあっ―――― 手慣れた動き、巧みな技巧、嫌がる麻衣の心を無視して動けない体は男の責めを受け入れ、快楽に応え始めていた。 頬が紅潮し、吐息が熱くなり、瞳が潤む。グイグイとお尻に押し付けてくる男の硬いモノに腰の奥が熱く疼き、なにかがじわっと溢れ出す。 「気持ちいいんだろ?・・・・ふふふ、指が濡れてきたよ」 ――――うそ・・・・うそだ。・・・・あ、あたし・・・・こ、こんな痴漢野郎に触られて・・・・感じてるなんて・・・・―――― 背後から首筋に唇が押し付けられ、堪らなくなって小さく喘ぐ。声は出せず指一本満足に自分の意思では動かせないのに、こんな自分の快楽への屈服ばかり素直に反応する体がたまらなく惨めだった。 クチュ・・・・ 太股を滑り、足の間を上っていった手がついに、麻衣の下着に触れた。僅かに湿った音が嫌に大きく麻衣の耳に届く。 ――――イヤ・・・・他の人に聞こえちゃう・・・・―――― 小さく首を振り、ショートカットの髪が揺れた。霞んだ意識は他の人が気づいて止めてくれるという考えさえ既に浮かばない。首筋を男の唇が這い上がり、小さな耳たぶを軽く噛まれると閉じた瞼が小刻みに震える。 ――――あ、あたし・・・・も、もうな、何が・・・・なんだか・・・・―――― 胸をこね回す手はいつしか制服の下から中に侵入を果たし、お気に入りのブラを器用に外すと直接胸を揉みし抱く。 うっすらと開けた視界に制服の上から自分の胸の膨らみが形を変えながら愛撫されているのがはっきり見えた。 クチュ・・・・クチュ・・・・クチュ・・・・ スカートの中の指も下着の上から秘裂に沿って上下に動いていたのが、徐々に大きく巧みになって行き、麻衣の耳に届く湿った音も少しずつ大きさを増す。 「ふふふ・・・・可愛いよ。ほら、もうこんなエッチに濡れて・・・・他の人に聞こえちゃうぞ?」 男の囁きが敏感な耳をくすぐる。 麻衣は知る由もないが、麻衣に憑依した色情霊に痴漢も、その周囲を囲む人間たちも完全に支配されていた そうでなければここまで大胆な痴漢行為が周囲に知られないわけはないし。心霊現象は麻衣を動けなくしただけでなく周囲の男たちをも巻き込んで加速する。 ――――あ、あたし・・・・あたし・・・・も、もう・・・・―――― 勝ち気な瞳は濡れ視界が霞む。体を包む熱は高まる一方で、お尻にグイグイと押し付けてくる熱く硬いモノに体の芯が切なく疼いた。 クチュクチュクチュ・・・・ ショーツは既に冷たく濡れ、脚のところから男の指の侵入を許していた。 敏感な粘膜をくすぐられると麻衣はもう堪らなくなって背中を男に預ける。ぐったりと力を失った麻衣に男は薄く笑みを浮かべさらなる高みに麻衣の体を引き上げるべく指の動きを速くしていった。 ――――あ、あ、ああっ! あ、あたし・・・・こ、こんな・・・・ああ・・・・気持ち・・・・いい―――― 乱暴性を微塵も感じない優しいタッチの責めが麻痺した麻衣の意識から恐怖をぬぐい去り、声さえ出せず抵抗を封じられた諦めが快楽へと身を委ねさせる。 「ここまで、何の抵抗もないなんてな・・・・実はお嬢ちゃん痴漢プレイがしたくて待ってたのかい?」 ――――そ、そんな・・・・事・・・・ふ、ふざけ・・・・ないで―――― 耳朶に囁かれる呆れたような男の屈辱の言葉。 しかし現に為すがままと言った感じで胸やスカートの中を嬲られながら、ぐったりと背後の男に体を預け、恍惚とした麻衣の表情を見れば痴漢と思う人間はあまりいないだろう。 「ふふふ・・・・エッチなお壌ちゃんだな・・・・谷山 麻衣ちゃんって言うのか・・・・」 ――――あ・・・・ん・・・・や・・・・だ。この・・・・あたしの生徒手帳・・・・か、勝手に・・・・・―――― いつの間にポケットから抜き取られたのか生徒手帳を覗きながら男はにやける。 「可愛い名前だね・・・・麻衣ちゃん・・・・」 ――――あっ・・・・くっ・・・・あ、あんたなんかに誉められたって嬉しくなんか・・・・んん・・・・―――― 耳の穴の中に舌を差し込まれ、クチュクチュと中を掻き回され恥辱と快感に身を震わせる。 横目で背後の男を睨み据えるが、快楽に濡れて潤む瞳は男の嗜虐心を煽るばかりで少しも効果はない。 ――――んんっ!!―――― それどころか興奮した男が唇を重ねてくる。 迫ってくる男の顔に逃がれようと僅かに首を捩るがそんな小さな動きで逃げられるわけもなく。麻衣のファーストキスはあっさりと痴漢によって奪われてしまった。 ――――そんな・・・・ひどい・・・・―――― 瞳が見開かれ、眼の端から涙が零れ落ちる。自分のファーストキスがこんな形で奪われるなんて・・・・ ――――んん・・・・んん~~~っ! ―――― 金縛りに痺れる体はくぐもった声さえ出せない。閉じた唇を軽く噛まれ、歯茎を舌で舐め擽られると頭が痺れる。 まだ発展途上の決して大きくない胸の膨らみは制服の中で男の手の平にすっぽりと収まり、意に反して硬く尖りはじめた桜色の頂を親指で時折そっと弾かれると瞼の裏を白い閃光が弾けた。 ――――こんな・・・・こんな・・・・―――― さっきから屈辱に、怒りに、悲しみに集中できない。 巧みに引き上げられる官能と見る間に目覚めていく未発達の性感。下着の中を緩やかに擽る男の指を濡らす恥ずかしい雫が淫らな水音を奏で、両膝がガクガクと笑っていて憎い痴漢の支えがなければ立っていられるかも解らない。 ――――はっ・・・・あ、ああ・・・・んん・・・・あふぅ―――― いつしか、甘えたように鼻を鳴らしキスに溺れている麻衣。 塞がれた唇から漏れる湿った唾音。いつの間にか男の舌の侵入を許し、それどころか麻衣自身の舌が口の中から引っ張り出され男の口の中でエッチに踊らされている。 ――――こ、んな・・・・キスが・・・・こんなに・・・・ふあっ・・・・気持ち・・・・いい・・・・んんっ―――― 仲の良い女子の友人同士で時折交わす猥談。奥手の麻衣と違って既に体験を済ませている友人の経験談なんかとは桁が違う。流し込まれる唾液を抵抗さえ忘れ喉を鳴らして飲み込んだ。 ――――はぁ・・・・っ―――― ようやく解放される唇。なのに名残を惜しむかのような切なく艶やかな吐息が漏れる。小さく熱く喘ぐ唇の端から零れた唾液が顎を伝い落ちて白い夏服を濡らした。 「そろそろ・・・・お嬢ちゃんばかり楽しんでないで俺も頼むよ・・・・」 制服から手が引き抜かれる。カチャカチャとベルトが外される音がし、麻衣のスカートがまくられる。 ――――はぁ・・・・はぁ・・・・え・・・・?―――― 「安心しなって・・・・さすがに・・・・ここで本番は不味いからね・・・・」 耳元で男が囁き、足の間に熱く硬いモノが押し当てられる。 ――――んあああっ!!―――― ゆっくりとそれが前後に動き始め、下着の上から潤んで敏感になった粘膜を擦り上げられ、弾かれるように背中を男の胸板にぶつけた。 ――――そ、そんな・・・・こ、こんなところで・・・・―――― 瞼の裏を閃光が弾け、堪らず喉を反らして後頭部を男の肩に預ける。 抱きすくめられ固定された腰、その脚の間を盛んに擦り上げられスカートがばたばたとはためき、湿った音が響き渡る。 「へへへ・・・・麻衣ちゃんにはスマタで悪いけどな。ご要望なら後でホテルでたっぷり可愛がってやるぜ?」 動きが速くなり、擦られる秘裂が奏でる湿った水音がもはや隠せないほどの音量で周囲に響き渡る。 その音が麻衣の被虐を煽り、羞恥を蘇らせる。今度は下着の上から侵入した手が麻衣の愛液をまぶした指で、花園の上に息づく小さな真珠をくすぐり麻衣の意識を幾度も小さく弾けさせた。 ――――や、やっ・・・・こ、こんな・・・・あ、あたし・・・・あたし・・・・―――― 麻衣の陥落が近いことを悟り周りの男たちの熱気が膨れあがる。 どよめきに周囲の乗客たちの視線が自分たちに集中しているのにようやく気づき、麻衣の顔が一気に青ざめる。 それどころかその何人かはチャックから引き出した自分の分身を荒い息をつきながら盛んにしごいていた。 ――――う、嘘? こ、この人たち・・・・みんな・・・・見てて―――― 10人単位の男たちに自分の痴態を見られていた・・・・押し寄せてくる羞恥に顔を伏せようと足掻くが男の手が顎を掴み正面を向かせる。 「ほら・・・・皆さんにも見てもらおうぜ。麻衣ちゃんのエッチなイキ顔を・・・・」 ――――そ、そんな・・・・―――― 縋るように背後の男を横目で見つめるが男は動きを止めようとしない。 ピンクの真珠が指先で弾かれ、熱く硬い肉棒にぐしょぐしょに濡れた下着の上から掻き擦られる秘裂は悲しいほどに男の与える快楽に屈服し盛んに涙を零す。 ――――はっ・・・・あっ・・・・も、もう・・・・もう・・・・だめ・・・・あ、あたし・・・・もう・・・・だめ・・・・―――― 色情霊に欲情させられた10人以上の熱い視線に射抜かれながら、小さく首を左右に振るが体は勝手に高ぶっていく・・・・。 自分の稚拙で臆病な自慰など比べものにならない遙か高みに導かれていく・・・・。 「イクよ。ほら麻衣ちゃん・・・・イクよ・・・・」 背後の男の上擦った声と荒い鼻息が高ぶり霞んだ麻衣の意識に響き、終局が近いことを告げた。 周囲に満ちる熱気も異常なほどに高まり、荒い息が籠もり分身をしごく男たちの手の動きも最高潮に達した。 「おおおうっ!!」 低いうめき声・・・・麻衣のスカートの中でぶちまけられる白濁の粘塊。 同時に周囲でも幾つものうめき声が響き、麻衣に向けてねらい澄ました幾つもの白濁がぶちまけられた。 スカートを白い制服を次々と汚していく黄色みを帯びた白濁・・・・立ちこめる精臭、と熱気。そしてもっとも敏感な真珠を摘み潰され麻衣は生まれて初めての絶頂に突き上げられた。 「あ、あ、あ、あああああああああああああああああああ――――――――っっ!!!」 狙い澄ましかの様に金縛りから解放され、浅ましい絶叫を上げる。 男の胸の中で背中を反らし、天を仰いで初めて体感する鮮烈な絶頂の高波に身を震わせた。 ドプッ・・・・ドピュッ・・・・ドピュッ・・・・ 男の腕から解放され、支えを失った体が力なく白濁に濡れる電車の床に崩れ落ちる。両手を床に着き、両脚をぺたんと床に付けて座り込む麻衣に向け次々と浴びせられる男たちの精。 制服を短く揃えられ色素の薄い髪を汚していく白濁を浴びながら麻衣は絶頂の余韻に身を震わせあがら荒い息を付いた。 「道元坂・・・・・道玄坂・・・・」 目的地の駅に到着したことを告げるアナウンスがむなしく麻衣の耳に木霊する。圧縮空気の抜ける音と共に電車のドアが開き、異空間と化した電車内をようやく解放した。 作品集へ 今日 - 人 昨日 - 人 total - 人
https://w.atwiki.jp/animerowa/pages/364.html
圧倒的な力、絶対的な恐怖 ◆Xbtp/256QU 「服は、これでいいよね」 彼女は静かに、店を出る。 彼女、朝倉涼子は民家を出てからは、街を歩き続けた。 そして幸運にも歩き始めてすぐに、女性向けのブティックを見つけた。 ここなら、代えの衣服はいくらでもある。 案の定、自分のサイズに合う服はすぐに見つかった。 彼女はとにかく制服のイメージを大きく変えるために、白のクラシックパンツと水色のブラウスを選択した。 その上には、先ほどの民家で手に入れた漆黒のコートを着込む。中に編みこんだ髪は防具の役割を果たすからだ。 本来の彼女なら、もっと素晴らしいコーディネートを見せてくれただろうが、今の彼女にはそんな余裕は無い。 服選びに時間を割く、心理的余裕を彼女は無くしていた。 「早く、誰か助けてくれる人にっ!」 彼女は焦っていた。 一刻も早く、自分を護衛してくれる人を見つけたかった。 死への恐怖、今までに無い感情に、かつての氷のような冷静さは、失われつつあった。 「あと十分」 吸血鬼アーカードは、時計を一目見て呟く。 二回目の放送までの残り時間。 ほとんどの参加者は、放送を気にして動きを止めるだろう。 アーカードも、獲物が見つかる可能性が低いのに、太陽の下を歩く気にはならなかった。 そのため、適当な建物を見つけ、中で放送が終わるまで待つことにした。 だが、その必要はすぐに無くなった。 窓越しに見える、反対側の店のショーウインドウが鏡の役割を果たし、そこに人影が映し出された。 「獲物!怪物か、それとも逃げるだけの狗か、先ほどのような殺し屋か?」 アーカードは、外へ向かう。 狩りへの出発だ。 「人間、私を倒してみろ!」 突然、目の前の壁が突き破られた。 少女の前に男が現れる。 獲物を見つけ、直射日光の最中にも関わらず飛び出した吸血鬼。 目は、新たなる闘争への喜びで輝いて見えた。 「ひっ!?」 少女は怯えた。 だけど怯えつつも、かろうじて残っている直感で全てを感じ取った。 この男は自分を『護衛』してくれる優しい男ではないと。 むしろ、獲物を狙い『狩る』ことしか考えていないと。 ――逃げないと―― 少女は思った。 逃げないと死ぬと。 でも…足は震えて動かない。 目の前の男に対する恐怖は、機動力を奪った。 少女は必死で考える。 逃げると言う選択肢を失った今、何をすべきか。 あらゆる考えが、浮かんでは消えた。 その無数の案の中で、最もシンプルな選択肢が残った。 右手に持つ鎖鎌を一目、見る。 そして、一番勇気の要る選択肢を、採用した。 少女は勇気を振り絞った。 「…うっ…えいっ!」 意を決して鎖鎌の分銅を、男の頭部めがけて投げる。 自分と男の距離は、わずか三メートル。 強化された分銅は、男の頭蓋骨を砕き、脳漿をぶちまけ、彼女は勝利を収めるはずだった。 仮に分銅が急所を外しても、当たりさえすればひるんだ隙に、相手の首を鋭さを増した鎌で切り裂き、やはり彼女は勝利を手にするはずだった。 そして彼女は死の恐怖に怯える、無力な少女ではない。 かつて、キョンに対し笑顔でナイフを向けた、このゲームでもピンク髪の少女の爪を笑顔で剥ぎ、笑顔で男二人の首を刈った、 笑顔が似合う、死を呼ぶ天使の朝倉涼子に、彼女は戻るはずだった。 だった。 そのはずだった。 「どうした、ヒューマン」 理想と現実は大きく食い違った。 上半身だけの手投げ、かつての殺人的勢いは分銅には無かった。 男はあっさりと、そして当然のごとく、左手一本で分銅を掴み取ってしまった。 そしてそのまま、鎖を引っ張る。 「うっ、くっ…う」 彼女も必死で鎌を、握り締める。 鎌を渡すまいと、両手で全力で、力強く握り締める。 両手は強く汗ばんでいた。 恐怖で、体は震えていた。 でも、絶対に手放せなかった。 今の彼女には、これ以外の武器が無かった。 これは彼女の強さを保つ唯一の術だった。 しかし現実は少女に対し、ことごとく残酷に進む。 「弱すぎるぞ、女!」 「きゃっ!」 男の怪力は、少女のそれを遥かに凌駕した。 鎖鎌を放さなかった少女は、自分の体ごと引っ張り上げられた。 ――うそ!―― 少女は体に浮遊感を感じる。 かつてない感覚。 周囲の全てが、スローモーションで見えた。 ただその中で、自分の体は…流されるだけだった。 「HAHAHAHAHA、チェックメイトだ人間!!」 銃弾を失った銃、ジャッカル。 その銃身を男アーカードは右手で握り締め、鎌を握り締めたまま宙を舞う少女朝倉涼子の腹部へと叩きつける。 銃弾を失ってなお、ジャッカルは猛威を奮い続けた。 「ぐっ…はっ……」 血を吐いて、少女は倒れる。 唯一の武器も、少女の手から離れた。 その武器は、男の左手に収まった。 「死んでないのか、素晴らしいしぶとさだ、ヒューマン」 普通なら背骨が砕け散り、致命傷となるはずだった。 しかし幸運にもジャッカルを叩き込んだ位置は、彼女が事前に服に仕込んだ硬質化した髪と同位置だった。 彼女はまだ意識があった。腹部への激しい激痛を伴いながら。 「うっ、うう」 腹を押さえもだえ苦しむ少女、男はそんな少女に向けて、鎌を振り上げた。 ゆっくりと、だが高く、鎌は振り上げられた。 「うう…ひっ!いやっ!お願いっやめてっ!」 少女の目に、高く振り上げられた鎌が映る。 彼女の恐怖は最高潮に達した。 自ら切れ味を強化させた鎌、あれを振り下ろされたらどうなるかは、本人が一番よく知っている。 「やめてっ!…うっうっうう」 少女の声は涙声に変わる。 目からは涙があふれ出る。 手で顔を押さえる。 男の絶大な力の前に、少女のプライドは崩壊した。 「……」 男は無言で、一瞬動きを止めた。 「…えっ!?」 男の動きが止まった、少女の恐怖がほんの少しだけ和らぐ。 ――助けてくれるの?―― 少女は期待した。 このまま自分を見逃してくれることを。 もしかしたら、無力な自分を『保護』してくれるかもしれないことを。 助けてくれることを。 「弱すぎる」 男の声と共に、少女の淡い期待は打ち消された。 そして次の瞬間、鎌は勢い良く振り下ろされた。 一度静止した分、力が込められていた。 狙いは、少女の… 「ひいぃぃぃっ!」 鎌は少女の顔と一センチも離れていない、路上の硬いアスファルトに鎌が深々と突き刺さった。 大きな音を立てて。 連戦によるダメージの蓄積が、手元をわずかに狂わせたのか。 少女の汗で湿った鎌の柄が、男の手を滑らせたのか。 それとも…… だがその一撃は、少女の心に絶大な恐怖を刻み付けた。 彼女は生まれて初めて、悲鳴を上げた。 そして彼女の意識は、恐怖が精神の限界を超過して、遮断された。 「つまらない、失望したぞ女!」 男は失望した、とても強く。 意識を失った少女に、罵声を浴びせるほどに。 この場に来てからの戦いは、どれも血肉踊る物だった。 自らの首をはねた魔術師、頭を使った賃金労働者、高潔な雰囲気を保ち続け自分と対峙した生き人形、 自分に幾つもの傷を負わせた女子学生、同じく幾つもの傷を負わし、死ぬまで真正面から戦い続けた殺し屋。 全ての戦いが、男にとって最高に幸せな時間だった。 だが今回のような、震えて逃げることも出来ず、命乞いをするだけの少女は、男を失望させるだけだった。 少女の黒いコートから、液体が流れる。 その少女の体液は、男の靴を汚す。 少女は自らが選んだ服を自らの体液で濡らした。 黒いコートの裏の白のクラシックパンツは、濡れて少し黒っぽくなった。 男は少女の醜態に、更に強く失望した。 これ以上に無いほどに。 青空には、放送を告げるギガゾンビの映像が、映し出されようとしていた。 【E-4 市街地/1日目/昼 放送直前】 【アーカード@HELLSING】 [状態]:全身に裂傷(回復中) 、靴に少女の体液が付着 [装備]:鎖鎌(ある程度、強化済み)、対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾無しのため、鈍器として使用予定)@HELLSING [道具]:無し [思考]: 1.とりあえず、放送を聞く。 2.目の前の少女を??? 3.不愉快な日光を避けるため、一時建物に潜伏。 4.ただし、獲物を見つければ闘争に赴く。 【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:恐怖による気絶、側頭部に傷(少し回復)、首までの短髪、死に対する恐怖、腹部に強い打撲。 [装備]:布状に編みこんだ髪(ある程度の強化済み) 、黒のコート(濡れている)、水色のブラウス、白いクラシックパンツ(濡れている) [道具]:支給品一式(食料無し)、ターザンロープの切れ端@ドラえもん、輸血用血液(×3p)@HELLSING [思考・状況] 1:目の前の男への、絶対的恐怖 2:優しい人に助けて欲しい。 3:劉鳳には会わないようにしたい。 4:桃色髪の少女が約束を守ってくれてるなら、一緒に居てほしい。 基本:絶対に死にたくない 備考 アーカードが朝倉涼子をどうするかは、不明です。 朝倉涼子の支給品のSOS団団長のワッペンは、近くの女性向けブティック店内に制服と共に放置されています。 ※鎖鎌の切れ味が強化されています。 ※布状に編みこんだ髪は硬度を強化されていますが、ナイフが通りにくい程度です。 時系列順で読む Back いつか見た始まり Next 黒い死神、赤いあくま、そして銀の殺人人形 投下順で読む Back いつか見た始まり Next 黒い死神、赤いあくま、そして銀の殺人人形 145 正義の味方Ⅱ アーカード 171 「聖少女領域」(前編) 147 KOOL EDITION 朝倉涼子 171 「聖少女領域」(前編)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2912.html
(※これは谷口探偵の事件簿の続きです) 表通りに飛び出して、さあこれからどこへ行こうかと考えあぐねていると、ズボンのポケットにつっこんでいた携帯電話がブルブルと震え始めた。取り出してディスプレイを確認すると、キョンからの連絡のようだ。 『谷口か!? 俺だ』 どちら様ですか? 私は谷口さんという名前ではございませんが。私、中山といいます。番号をお間違えになったのでは? 再度、そのマヌケ面で番号をお確かめの上ナンバープッシュすることをお薦めします。それでは聞いてください。歌います。昭和枯れすすき。 『谷口で間違いないようだな。そっちに朝比奈さん行ってないか? いや、見かけなかったか?』 ちょうど良かった。俺もお前にそのことで連絡しようとしてたところだったんだ。こっちには来ていない。 『そうか。今朝から朝比奈さんと連絡がつかなくてな。心配になってアパートまで行ってみたんだが、いつの間にか部屋を解約して消えてしまってたんだ』 落ち着きのないキョンの声を聞きながら、俺は軽く舌打ちをした。間に合わなかったのか? 『心当たりは全てあたってみたんだが、足取りがまったくつかめないんだ』 まあ一度、冷静になれ。彼女の最近の様子をよく考えてみろ。何か変わった事はなかったか? たとえば山に行きたいって言ってたとか、お前とケンカして北国へ傷心旅行したいと言ってたとか。 『いや、変わった点は何もなかった……はずだ。とにかく、俺はもう少し町の中を探してみる。お前も探してくれないか?』 朝比奈さんのこととあっては、協力しないわけにもいかないな。別にお前のためじゃないぞ。俺が捜したいから探すだけだ。 キョンとの通信を切って、俺は走り出した。あいつとの会話の中で、自分が行くべき場所が一つに絞り込めた。 キョンは朝比奈さんのアパートにも心当たりのあるところにも、隈無くあたったと言った。神経の細かいあいつのことだ。打ち漏らしはないだろう。そして朝比奈さんともっとも付き合いの長いキョンが見つけられなかった以上、俺が彼女の手がかりなどつかめるはずもない。 ただ一カ所を除いては。灯台もと暗しというか、鈍いキョンのことだ。その一カ所までは気が回っていないに違いない。 頼むぜ、朝比奈さん。まだこの時代に居てくれよ。最後にお別れの挨拶くらい言ったってバチは当たらないと思うからさ。 キョンのマンションにたどり着いた俺は、無言でエレベーターに乗り込む。相変わらず、果てしなく機械的で無機質なマンションだ。あたたかい白熱灯の光も、やけに寒々しく感じられる。 イライラしながらエレベーターが指定の階に到着するのを待っていた俺は、扉が開くや、すぐに駆けだした。 俺が思いつく場所はもうここしかない。自宅にもキョンの心当たりの場所にも不在だったのなら、彼女の行きそうなところはここだけだ。ロマンチストな朝比奈さんのことだから、最後に愛しの彼の家に赴くということは想像できる。 高鳴る胸を抑えつつ、俺はキョンの部屋の前に立つ。鍵がかかってたらどうしよう。その時は仕方ない。今は考えてたって埒があかない。半ばヤケに近い気持ちで俺はドアノブに手をかけた。 開いた。すんなりと回ったドアノブに拍子抜けしたが、ありがたい。誰か中にいるようだ。頼む、キョン妹じゃなくて朝比奈さんであってくれよ。 俺が玄関で靴を脱ぐと、部屋の中からオルゴールの音色が聞こえてきた。 白いカーテンの編み目から、部屋の中へしみこむように差す陽の光が、朝比奈さんの背中に降りそそいでいた。クッションの上に腰をかけて膝を抱き、物憂げな彼女は、眠るような瞳で机上のオルゴールを眺めている。 暑い夏の日なのに、やけに部屋の中には冷気が漂っているように感じられた。 遠くから聞こえてくる蝉の鳴き声と、名前も分からないオルゴールの曲が室内に低くひびき渡っていた。 こんにちは、朝比奈さん。ご機嫌麗しく……ないようですね。 「谷口くん……。よかった。キョンくんじゃなくて」 光栄ですね。 「部屋のドアが開いた時ね、ちょっと驚いたの。もしかして、キョンくんが帰ってきたんじゃないかと思って」 あいつなら今頃、煮えくりかえった頭で町中を走り回ってますよ。あなたが自宅に来ているとも知らずにね。 朝比奈さんは抱いた両膝に、顔をうずめた。 「キョンくんには悪いことしたな。でも、彼に会ったら決心が鈍りそうだったから」 背を丸めて膝の上にあごを載せ、かわいらしい未来人はこちらを一瞥した。 「谷口くんがここにいるということは、もう事情は知っているんですよね」 ええ。あなたが世界を救うために妖精の国からやってきた魔法少女っていうあたりまでは知ってます。 俺は床に胡坐をかき、依然オルゴールを見つめる朝比奈さんの横顔を見ていた。 「世界を救う、か。見方を変えれば確かにそうですね。でも、皮肉だよね。未来を変革して消滅させることでしか、私たちの生まれ育った世界は救えないんですもの」 しばらく朝比奈さんと俺は座り込んだまま身動きひとつせず、ただただ黙り込んでいた。時間の流れがひどく遅くなった。 一度あがっていた雨が、また降り始めたようだ。 「私ね、本当は国木田くんよりも先に未来へ帰る予定だったの」 悲しそうに微笑み、朝比奈さんは俺に語りかけた。 「でも。なかなか踏ん切りがつかなくて。私ってけっこう優柔不断なんだよ。昨日はね。何もなくなった自分の部屋で一晩中、こうやってキョンに買ってもらったオルゴールを聴きながら、膝を抱えて悩んでたの。夜が明ける前に未来へ帰ろうって。でも、気がついたらこうして夜が明けちゃってたんだ。意志薄弱だよね。最後に一度だけ、彼に逢いたくなって、我慢できずにここへ来ちゃった。でも、彼は留守だった。良かった。これで良かったのよ。もし彼と会ってたら、私、未来へ帰れなくなってたかもしれないから」 俺個人としては、帰らなくてもいいんじゃないかと思うけどね。部外者の単純な意見だけどさ、俺は朝比奈さんの悲しむ顔なんて見たくないよ。 「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいです。でも、そうもいかないの。私が帰らないと、未来世界は本当に消滅してしまうかもしれないもの」 それが、朝比奈さんたちの未来世界の目的だったんじゃないですか? 膝を抱えたまま背筋をそらし、考え事をするように朝比奈さんは天井を見上げていた。 「私の目から見て、この時代はすごく幸せな世界だと思う。連日のように悲しいニュースとか社会問題とかが報じられているけど、豊かだし、平和だし。私、海外旅行とかしたことないから、この国に住んでいての意見ですけど」 まあ確かに現代は幸福な時代なのかもしれませんね。特に日本は。あまり意識しなくても食べ物は食べられるし、衣服も手に入る。よほどのことがない限り、生命の危機にさらされることもない。 それでもやっぱ、駄目な部分もたくさんありますよ。具体的にどうこうは言いませんが、恵まれた豊かさ自体が仇になっている面も、確実にあるわけだし。 「何でもそうですよ。長所があれば短所もある。短所があれば、長所もある」 よほどうぬぼれた人じゃない限り、人間は自分の長所よりも短所を挙げる方が得意だ。常に客観的に自分像を見ているわけじゃないから、自分のどんなところが良い点なのか判断つきづらいのだ。逆に他人のこととなると、短所も長所も大差なく見つけることができる。要は物事を客観的に見て、かつ相対的に判断しなけりゃ良いも悪いも分からないということだ。 「私はこの時代に来る前までは、自分の生まれ育った時代が嫌いでした。日々の生活を維持していくだけでも大変な毎日。過去の時代の話を聞くたびに、なんで今がこんな世界になっちゃったんだろうって思ってた。だから、困っているみんながこれ以上辛い思いをすることがないように、過去を変えようと決心してこの時代にきたの。でも、この時代で何年も生活しているうちに気づいたの。嫌いだ厭だと思っていたあの時代にも、やっぱり良いところはあったんだなって。辛いことが多すぎて見失いがちだったけど、楽しいこと嬉しかったこともあったことに気づいたの」 それで、未来へ帰ろうと決心したわけですね。 「そう。あんな世界でも、良いところもあるんだし。それを無視して全部無かったことにしたりしたら、悲しすぎるでしょ? 私を応援してくれたみんなには悪いけど。今はただ、あの世界が懐かしくて、恋しいと思えるようになったから。だから、私は決めたの。次にこのオルゴールが止まった時。私は未来へ帰るわ」 次第に曲のテンポが緩慢になっていくオルゴール。朝比奈さんも俺も、オルゴールのネジの回転を眺めていた。 「うぬぼれるわけじゃないけど昔、谷口くん、私のこと好きだったでしょ?」 唐突な朝比奈さんの問いかけに鼻から何か吹き出しそうになった。 な、なにを突然おっしゃられる。いやだなあ、あはははは。実はその通りです。……昔の話ですよ。 朝比奈さんは、年齢を感じさせない穏やかな笑みを浮かべた。 「私がこの時代に普通の女の子として生まれてたら、どうなってたのかな。やっぱり谷口くんや国木田くんと出会って、キョンくんと恋人同士になれてたのかな。私にとって、そっちの方が幸せだったのかな。なんてね。こんなこと言っても仕方ないことだとは思うけど……つい、思っちゃうのよね」 オルゴールはさらにテンポを落とし、ゆっくり透き通った金属音を奏でていた。 「最後に谷口くんが来てくれてよかった。笑って未来へ帰れるんですもの。やっぱり誰かにお別れの挨拶が言えるって、気持ちの整理がついて大事なことですね」 そう言ってもらえると、雨上がりの道を濡れながら走ってきた甲斐がありましたよ。 でも、やっぱり朝比奈さんがお別れを言うべきは俺じゃないっスよ。そう言って、俺はポケットから携帯を取り出し、送信済みメールの内容を映したディスプレイを朝比奈さんの方へ差し出した。 『おい三流探偵。朝比奈さん見つけたぞ早く帰ってこいボケ』 大きな音と共に、部屋のドアが乱暴に開かれた。朝比奈さんと俺が、玄関の方へ視線をやる。 そこにはズブ濡れになった三流探偵が息を荒げながら立っていた。 「やっと……見つけた………」 「……キョンくん」 2人に背を向け、部屋から出た俺は静かに扉を閉めた。ずいぶんと気持ちは落ち着いていた。俺がやるべきことはもう無いんだ。これ以上、谷口さんを頼ってくれるなよ。 少し目眩がした。俺は軽くかぶりを振り、廊下の壁にもたれかかった。 部屋の中からは、もうオルゴールの音色は聞こえてこなかった。 俺は何を考えるでもなく、呆っとした頭で、夕暮れ過ぎの公園でベンチに座っていた。未だに国木田と朝比奈さんがいなくなってしまったという実感がない。当然だ。ご両人が消えた現場を目撃していないんだからな。明日か明後日あたりに2人がひょっこり顔を出してドッキリでした~、とおどけた調子で嘯いてもおかしくはない。そんな心境だ。 俺は何もする気にならないまま、ベンチに居座っていた。もうかれこれ1時間は経つだろうか。もうすぐ、朝倉涼子との待ち合わせの時間だ。 たとえ何を言われようと、俺は厳粛な気持ちで受け止めるつもりだ。 俺がベンチにもたれかかってうとうとし始めた20時頃。芝生の植え込みの脇道から、シャツの上にベストを着てドライジーンズを穿いた朝倉涼子が現れた。 「ごめんなさい。待った?」 いや全然。俺も今きたばかり……っていう気分だ。 俺の隣に腰を下ろした朝倉涼子は、しばらくうつむいたまま自分の指先を見つめていた。 「もう、朝比奈さんには会ってきたの?」 ああ。会ってきた。最後に谷口くんに会えてよかたってさ。 「古泉さんから私たちのことを聞いていると思うけど、どこまで聞いたの?」 キミが地球の破滅を救うため、大宇宙連合軍の銀輪サソリ部隊から派遣されてきた女軍人ってあたりまで。 そう。と息をもらすように呟き、朝倉涼子は俺の手をとり、ペンライトのような円柱形の物体を握らせた。 「これを受け取って」 俺は渡された白光りするペンライトを、訝しむ目つきであらゆる角度から観察してみた。しかしどう見てもペンライトはペンライトで、せいぜい円柱形の端っこにスイッチらしき突起物があるくらいのことしか分からない。100円ショップの店先に並べられていても違和感のない安っぽいシンプルな金属棒だ。 何スかこれ。犬笛? 「私はこれをあなたに渡すため、過去のこの世界に来たの」 ……朝倉さん。それで、この赤外線ポインターみたいな棒はなんなんですか。 「それは、アンチTPDDという装置よ。私たちが時間移動をする際に使用する装置をTPDDというんだけど、そのTPDDを中和して無効化する。それがアンチTPDD」 そのまんまですね。原理はよく分かりませんが、分かりました。で、なぜ俺にこれを? 「それが、私のいた未来での既定事項だから。国木田くんは知らされていなかったと思うけど、朝比奈みくるがこの時代に現れることは、私のいた未来では決定されていたことなの。そして、彼女が自発的に自分のいた未来世界へ帰還することも」 朝倉涼子は申し訳なさそうな表情で言葉を続ける。 「私たちの未来世界では、朝比奈さんたちの未来世界がそれ以上この時代に干渉することはなかった。しかし今、この時代には朝比奈みくるに続く未来人が訪れている」 古泉の話を思い出す。俺の記憶が正しければ、それが縁日の日に会った、鶴屋さん。 「私たちのいた未来世界にはその鶴屋という人物が現れた記録がないから、彼女がどんな行動に出るのか、まるで分からなかったの」 朝倉涼子の声が次第に小さくなって行く。 不安なのだろう。 仮に俺が戦国時代にタイムスリップしたとしよう。明智光秀の謀反により織田信長が本能寺で没するのは誰もが知る歴史上の出来事だが、もしもその蜂起を事前に察知していた織田信長がそれを逆手にとり、裏切り者の明智光秀を討ちとったとしたら。それを俺が目の当たりにしてしまったら。おそらく俺は 「日本史の時間に習ったことと違うじゃん! 日本の未来はどうなるの?」 と不安になるだろう。 あ、いや、ならないかも。「ま、いいや。どうせ他人事だし」 と冷めた目で見てるかも知れない……。大河ドラマ観てないし。 しかしバッチリ不安になった人たちがいる。朝倉涼子たち未来人だ。 「このアンチTPDDを使えば、TPDDにより時間移動している未来人を元いた時間平面まで強制帰還させることができます。これで、朝比奈さんの後にやってきた鶴屋という未来人を元の時代へ強制移送させてもらいたのです」 朝倉涼子が熱意のこもった眼差しを俺に向ける。やめてくれよ、俺そういうのに弱いんだ。 でも、なぜ俺なんだ? 俺なんかに頼んだって、任務をまっとうできるかどうかも怪しいぜ。どういう人がその頼みに適しているのかは知らないが、俺よりも警察とか軍隊とか、特殊な訓練を受けてる人に頼んだ方がいいんじゃないか? 「体さえ鍛えておけば誰でもいいって言うわけじゃないわ。いろいろとあるのよ」 そのいろいろの条件に、見事俺が合致したわけだ。光栄ですね。ただ俺が頼みやすかったから頼んだだけかと思ったよ。 「私たちの世界では、過去の歴史にできるだけ干渉しないのが時間移動の掟なの。それがまかり通ったら、未来世界は混乱の坩堝になってしまうから。だから、嫌な役かもしれないけど、ぜひ谷口くんにお願いしたいの」 今にも泣き出しそうな声で、朝倉涼子は顔を伏せた。 「……ごめんなさい。私、勝手なことばかり言ってるよね」 「最初から私が仕組んでいたことだったのよ。国木田くんを通してあなたに会ったのも、この時のため。この時代に協力者を作り、アンチTPDDを託すためだったの。その後、偶然を装ってあなたのところへ訪れたのも、あなたを仲良くしてこのアンチTPDDを受け取ってもらいやすくするため。全部、下心があってやってたことなの。……谷口くんのこと、騙してたんだよ」 顔を伏せたまま、朝倉涼子は低くすすり泣き始めていた。 「……最低でしょ。私……」 いつの間にかあたりはすっかり夜になっていた。俺たちをとり巻く宵闇が、奇妙に心寂しくよどんでいた。 街頭のたよりなげな明かりが降り注ぐ。俺はアンチTPDDとやらを懐にしまい、朝倉涼子の頭に手を載せた。 俺は別に騙されたなんて思っちゃいないよ。下心? けっこうじゃないか。バッグがほしい指輪がほしいと猫なで声でおねだりする女に比べれば、ポケットペンを受け取ってもらいたかったから近づいたなんて、実にかわいらしい下心じゃないか。 それに、そういう女のわがままを許せてこその男の甲斐性なわけだが。 深い考えがあったわけじゃないが、俺は朝倉涼子の肩を抱き寄せた。驚いた様子で朝倉さんが顔をあげる。 もう何も言うな。このアンチPDFももらってやるから。ん? PDF? PPDF? なんだっていいや。もう返せって言ったって返さないからな。 「……ありがとう」 俺はしばらく朝倉涼子の肩を抱いていた。彼女もそのまま、身体を俺の腕にあずけていた。 アーミーナイフを扱うところを目撃したことがあるし、阪中邸の前で夜中にうろうろしている時に背中からフロントキックで吹っ飛ばされたこともあるから、もっとたくましいイメージだったんだが、彼女の身体は俺が思っていたよりもずっと小柄で、かよわかった。 やわらかいなぁ。いい香りもするし。クンクンしていいですか? 「バカ。いい雰囲気が台無しじゃない」 ところでもらったはいいけど、この棒、どうやって使うの? 鶴屋さんの近くでこの先のスイッチ押せばいいの? 「そのアンチTPDDは一番小さな物で、大した効力はないわ。そのアンチTPDDから10m以内の相手にしか効果が発揮されないし、5時間で電池が切れるわ」 10mって、全然意味ないじゃないか。しかも電池!? そんなん、あれだよ。鶴屋さんを無事に未来世界へ強制送還させられたとしても、TPDDですぐにまた過去へやって来るんじゃないの? 「そうよ。そのアンチTPDDはあくまでも子供だましの玩具にすぎないわ。でも、特定の条件下で使用すれば、その効力は全宇宙に広がり、数十年の間、維持され続けることになるの」 特定の条件下? 原発につっこめとか言うんじゃないでしょうね。 「そんなんじゃないわ。谷口くん、涼宮ハルヒと面識があるわよね。彼女の至近距離でそのアンチTPDDのスイッチを入れるの。そうすれば、涼宮ハルヒの力を利用し、全宇宙にアンチTPDDの効力が展開されることになるわ。そしてエネルギー源が涼宮ハルヒの能力にコネクトされれば、彼女の力が続く限りアンチTPDDは展開され続ける。つまり、未来からの干渉は一切なくなるということ」 そうだ。古泉に訊こうと思って、結局訊きそびれていたことがある。朝倉さん、涼宮ハルヒってのは一体何者なんだ? 古泉やキミの話を聞く限りでは、ただ者じゃないということは窺えるんだが。 「正確なことは、誰にもわからないわ。ただ、彼女には不思議な力が宿っているの。それは、偶然を呼び寄せる力」 偶然、か。最近やたらとよく聞くようになった単語だな。 「彼女の機嫌が悪くなると、なんの前触れもなく様々な事象が発生する。偶然としか思えないようなことがね。谷口くんも実際に経験済みでしょ? 未来の世界でも歴史の授業には冗談まじりに言われるのよ。涼宮ハルヒはフォルトゥナの化身なんだって」 まあ、確かに経験済みですけど。そんなワケの分からないエスパー漫画的パワーに地球の未来を賭けろといわれてもなあ……。しかもフォルトゥナって……。 「なによ。私の言うことが信じられないっていうの?」 俺の肩に頭をもたれかけていた朝倉さんが、憤然と眉をつりあげて俺の顔を見上げた。鼻先と鼻先がぶつかる距離だ。 そういうワケじゃないんですけどね。なんていうか、少女一人にそんな宇宙を牛耳るような能力があるとは思えないんですよね。そう思うのが、普通なんじゃない? 「それはそうだけど。ともかく、原理は分からなくてもいいじゃない。そういうもんだと割り切ってさ」 割り切るのは簡単だが、イマイチ納得できないんだよな……。納得もできないものに命運を預けるというのも、どうかと思うよ。 「責任転嫁だとなじられたら返す言葉もないけれど、私たちの世界の運命は、あなたとアンチTPDDに託したわ。後のことはお願いね、谷口くん」 目の前数センチでにこっと笑った朝倉涼子は、そっと俺に口づけした。 俺は朝倉さんの肩を強く抱いたままそっぽ向いた。赤くなんてなってないぞ。 「……ずっとこうしていたい気もするけど。私、そろそろ帰らなきゃ。するべきことは、全て終わったんだし」 朝倉涼子は、そっと俺の胸に手を置いた。 せめて、アンチTPDDがうまく発動するのを見届けてから帰る、ってワケにはいかないのか? 「うん……。私たち未来人は、許可無く自己都合で過去の世界にとどまるわけにはいかないの」 それじゃ、今夜いっぱいだけでも。いい店みつけたんだ。おごるからさ。一晩つきあってくれよ。 「そうなんだ。行きたいな。でも、無理なの」 朝倉涼子は額を俺の肩におしつけ、風の流れのように囁いた。 俺もそれ以上は、何も言わなかった。自分の都合を相手に押し付けたりしない。大人ってのも、けっこう大変なんだ。 「ちゃんとしたご飯を食べないとダメだよ。インスタントや外食ばかりは身体に毒だから」 ああ。 「コーヒーもブラックばかり飲んでないで、少しは砂糖いれなきゃダメだよ。身体に悪いから」 ん。 「仕事仕事でがんばりすぎちゃダメだよ。休むべき時には、ちゃんと休まないと」 わかってるって。 「寝る時はちゃんとベッドでね。床で寝てたら、風邪ひく元だから」 心がけるよ。 「財布を落としても、曖昧に済ませちゃダメだよ」 善処するよ。 「ええと、それから後言っておくことは………なんて。長門さんがいれば、私が心配することなんてないわね」 そんなことないさ。あいつはあれで結構、ぬけているんだ。まだまだ一人前として認めてやるわけにはいかないな。 長いようで、短い時間だった。いや、短いようで長い時間だったのかもしれない。 スズムシの声を聞きながら、しばらく俺と朝倉涼子は互いの背に腕をまわして抱き合っていた。 朝倉涼子の髪からは、なんとも言えない快い、心穏やかになれる香りが漂っていた。 すとん、と俺の腕の中から、支えを失って急落下するように、朝倉涼子の存在が消えた感覚があった。 スズムシの音色が一段と大きくなった。目を開けると、周囲に人影はなく、ただ一人、俺だけが暗くなった公園のベンチに座って、宙へ腕を伸ばした格好で座っていた。 ポケットに手を入れて立ち上がる。そこには、しっかりとアンチTPDDの感触があった。 まだ、俺の鼻腔には朝倉涼子の髪の香りが残っていた。一体なんの匂いなんだろう。と考えた。 結局考えてみても、鼻からその匂いが消え去る前に香りの正体がつかめることはなかった。 それが無性に悲しかった。 翌日。 何故か俺の事務所に2人の男がやってきた。見たくもなかった面だ。遠まわしな言い方をせずストレートに言えば、要するにキョンと古泉だ。 おかしな話だが、俺たち3人には2つの共通点があった。1つは目がウサギさんかっていうくらいに真っ赤なこと。2つ目は、髪がボサボサの寝癖状態だってことだ。 よう、キョン。いい男になったじゃないか。ええ? 「お前こそ、更に二枚目に磨きがかかったんじゃないか?」 いつもならボロクソに互いの特徴につっこむところだが、いかんせん今日の俺とキョンはまったく同じ状態のいでたちだ。相手に対する嫌味はそのまま自分に返ってくるわけだから、それ以上なにも言えないわけで。 ちなみに何故俺とキョンの目が赤くて髪が皇帝ペンギンなみにボサボサなのかと言うと、徹夜で夜を泣き明かしたからに他ならない。口外はしていないが、暗黙の了解というやつだ。 「はっはっは。お二人とも純情ですね」 唯一状況が違うのはこの古泉一太郎だ。こいつの場合は泣いてたわけじゃなく、ただ単に徹夜で疲労してるだけだ。 どうやらキョンに対して古泉が全ての事情を語ったらしい。どこまで話したのかは知らないが、昨日目の前で消えた愛しの彼女が未来人だったことくらいはキョンも納得しているに違いない。 「俺はなあ。朝比奈さんをヨーロッパ旅行につれて行ってやろうと秘密裏で計画を立ててたところだったんだよ。おかげで来月、妹とヨーロッパに行くことになっちまったんだぞ」 んなこと知るかよ。俺なんて朝倉さんに告白しようと思ってムーディーな店を探してた矢先の出来事だったんだぞ。昨夜なんてその店でヤケ酒飲んでたら、朝倉さんが座るはずだった予定の俺の隣の席に古泉が座ってたんだぞ。この哀しみがお前に分かるか? 「いやあ、照れますね」 照れんでいいわ、このボケ! 本当にイラッとくるな、お前のそのしゃべり方。狙ってやってるだろ? 「それよりも2人とも。何故ここに集まってもらったのか、分かっているのですか? 説明は済ませているはずですよ。もっと危機感を持ってください」 珍しく古泉が真剣な顔つきでそう言った。お前が余計なことを言うからだ。 「言ったでしょう。昨日未明、涼宮ハルヒが何者かによって誘拐されてしまったと。我々『機関』の者の目撃談によれば、例の未来人、鶴屋という女性の外見と一致します。非常にまずい事態です」 半分無意識に、俺はズボンのポケットへ手を入れた。そこには、朝倉さんの置き土産がちゃんと入っていた。 「涼宮さんの能力は未来人にさえも未知数です。ヘタに刺激を加えれば、一体何が起こるのか想像もつきません。今までは『機関』が彼女を保護してきましたが、今回のことは我々の失態です。鶴屋さんが乱暴な手段に訴えなければ良いのですが……」 涼宮の腰ぎんちゃく古泉、涼宮の想い人キョン、そして世界の運命を握る兵器を持った俺、谷口。この3名が、さらわれた涼宮ハルヒを救出するために出動するレスキュー部隊だという。 『機関』が勢力をあげて救出に向かえばいいだろうと思うが、あまり鶴屋さんに対して刺激を与えたくないのだろう。なんでもいい。俺としては、アンチTPDD。こいつが使えれば文句はない。 「徹夜の作業で、ようやく『機関』が相手の潜伏場所をつきとめました。手遅れにならないうちに、救出に向かいましょう」 「俺は行かないぜ」 壁に背をあずけたまま、髪を手櫛でとかすキョンがそう言った。おい、空気読めよ。 「俺はそんな気分じゃないんだ。俺がいてもいなくても関係ないだろ」 「あなたは……。それでもいいんですか? このままだと、朝比奈みくるや国木田さんのいた未来世界が消滅してしまうかもしれないのですよ?」 「よせよ……」 「あなたも、分かっているんじゃないですか? 涼宮さんが、そばにいてもらいたいと願っている人が誰なのか」 「やめろって。俺になに期待してるんだよ。ハルヒを助けるアンチなんとかって機械は谷口が持っているんだろう。谷口が行けばそれでいいじゃないか」 「あなたは、何も分かっていない」 「放っておいてくれよ! もうどうでもいいんだよ、未来なんて!」 キョンのセリフが俺の脳天に突き刺さる。未来なんてどうでもいい? 一瞬にして頭に血が昇る。カッとした勢いで、俺は無意識のうちにキョンの頬に拳を打ちつけていた。 キョンの身体が机の上の新聞を撒き散らし、もんどりうって倒れこむ。 「谷口さん!」 おいキョン、この野郎。なんだと? もう一度言ってみろ。 何か言いた気な顔つきで、キョンは口元を押さえたまま立ち上がったが、結局何も言わず俺を睨みつけるだけだった。 こいつの言いたいことは俺にもよく分かる。こいつと俺は、同じ境遇なんだからな。そりゃ俺だってヤケになって自分の殻に閉じこもりたいよ。その方が楽だしな。でもな。それじゃ解決しない問題だってあるだろう。特に今回は時間がないんだ。ここでもたもたしてたら朝比奈さんや国木田、朝倉さんに怒られちまうぜ。ここが一番気張るべき場面なんだ。 本当はキョンだってそんなことは痛いほど分かってるんだ。 おいキョン! 朝比奈さんがいなくなって、そんなに悲しいか!? 「悲しいさ!」 だったら泣くな! 涙をふけ! お前の心の中にある、正しいと思うことを貫き通せ! 「偉そうなこと言いやがって。お前こそ泣いてるじゃないか!」 泣いてるもんか! これは胆汁が逆流して目から分泌されてるだけだ! 俺はそういう体質なんだ! 「谷口! 朝倉さんがいなくなって、悲しいか!?」 悲しいに決まってるだろバカヤロー! 「谷口、歯ぁくいしばれ!」 ばっちこ────い! 俺の頬に脳をゆさぶるほどの衝撃がはしる。壁に背をぶつけ、わずかに肺がつぶれる圧迫感に苛まれるが、不思議と気分が晴れた気がした。 「……行こうぜ、古泉、谷口。ハルヒを助け出すんだ」 ああ。気合も入ったところで、行こうか。 ~つづく~
https://w.atwiki.jp/haruhi_dictionary/pages/130.html
作中で印象に残った台詞、気になるモノローグ、何について指しているのか等を掲載。 ※ネタバレがあるので、原作未読の場合は注意。 台詞 台詞 エマージェンシーを受け取ったわ。だからわたしが現れたの。不思議なことじゃないでしょう? (βルート)・朝倉涼子 「長門のバックアップ」である朝倉涼子。 長門が動けなくなったから、朝倉が復活した。これは異常事態であるとキョンは推測している。 長門さんは彼等との中継機器の役割を果たしています。今も実践中です。見守ってあげてください (βルート)・喜緑江美里 長門は、天蓋領域と言語を使わないコミュニケーションをとるために眠っていたらしく、それが長門の役目であると、彼女は言っている。 橘京子をつつけば何かでてくるかもしれませんが、推測するに期待薄ですね。 彼女たちの一派と長門さんのこの症状は無関係に等しい。 (βルート)・古泉一樹 第9巻『分裂』の「第3章」(βルート)にて、古泉は「天蓋領域の単体攻撃」であると推測。 後に橘京子の一派が攻撃を仕掛けてくることも予想される。 しばらくSOS団は活動休止にするわ (βルート)・涼宮ハルヒ 長門が熱を出して倒れたため、部室での活動を休止し、長門の家への集合宣言をしたハルヒの台詞。 ちなみに、SOS団の活動休止宣言をしたのは今回が初めてである。 キョン、キミはずいぶん立腹のようだが、今日明日中で頭を冷静にしておいたほうがいいだろうと僕は考えるね。 まさに今のキミの反応が彼等の計画の一環かもしれないからさ。 (βルート)・佐々木 第9巻『分裂』の「第二章」(βルート)にて、橘京子は佐々木とキョンの同意があれば力を佐々木に移植できると発言した。 藤原と九曜の目的はまだ判明していないが、3人はキョンが佐々木に連絡するのを待っていたフシがあったようだ。
https://w.atwiki.jp/llnj_ss/pages/1689.html
元スレURL 虹ヶ咲痴漢同好会_議事録 概要 反社会的行為である「痴漢」をあくまで空想として語る紳士淑女の社交場 圧倒的な熱量をもって語られるスクドル同好会への痴漢記録全集 タグ ^エロ 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/rakirowa/pages/87.html
【名前】赤木しげる(13歳) 【所属】カオスロワ 【性別】男 【外見】少し大人びた白髪の少年。あと凶器の顎と鼻。 【内面】年上を敬称をつけて呼んだり、意外と礼儀正しい。ちょっとツンデレ。 【詳細】 白髪の少年。 麻雀・その他ギャンブルの天才。能力・精神性・運気、 その全てが常軌を逸しており後に「悪魔」と比喩される。 カオスロワでは序盤、朝倉涼子、消失長門、南千秋と、 どっかのアカギと違いハーレムであったがアカギはまったく気にしていなかった。 ついでにどっかのアカギは我道を突っ走るある意味大ボケ担当をしていたが、 このアカギは終始ツッコミ担当であった。 中盤以降は上記の三名(消失長門は真・長門有希に変わった)に、 海馬瀬人と南春香の2人を入れた総勢6人で『異端組』を結成、 リーダー的存在になる。 (どうでもいい話だが、喫煙、髪型などで海馬、春香両名から年上だと思われていた) その後主催者である鷹野に、朝倉、長門と協力技 アカギドリルトルネードを披露する。 終始どっかのアカギとは違い、何も疑われず色々な参加者に信頼された。 (海馬には最後に兄と呼んでくれた千秋を頼むとまで言われた) ちなみに女性である鷹野と戦闘中、諸事情で高野が全裸になったとき、 顔を赤くするなど結構そういうことになれてない模様。 【参加者との関係】 南春香→中盤から共に行動、絶大な信頼関係。 南千秋→最序盤から共に行動、かなり親密。 6/→カオスロワの終焉のための『光』と評す。 アナゴ→6/の全裸を見た仲、戦友。 朝倉涼子→最序盤から共に行動。絶大な信頼関係。 真・長門有希→最序盤から共に行動、絶大な信頼関係。 武藤遊戯→6/の全裸を見た仲、戦友。 柊かがみ→6/の全裸を見た仲、戦友。 赤木しげる(19歳)→どーにでもなーれ。
https://w.atwiki.jp/yaruosurerowa/pages/103.html
【涼宮ハルヒの憂鬱】からの支給品 【朝倉のナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱】 ウヴァに支給された。 ご存じ、キョンを襲撃した際に朝倉涼子が使っていたナイフ。 【SOS団団長の腕章@涼宮ハルヒの憂鬱】 宮藤芳佳に支給された。 涼宮ハルヒがSOS団の活動中に着けている腕章。
https://w.atwiki.jp/ln_alter2/pages/268.html
“幻想殺し”と黙する姫【レイディ】 ◆LxH6hCs9JU この身に降りかかった不幸、そのすべてを語る。 それは姫路瑞希にとって、過酷な要求であると言えた。 羞恥心も忘れて露出狂すれすれの格好を晒していたことや、声を失ってしまったこと。 それらの起因はなんだったのか、紳士を自称する上条当麻は、すべてに繋がる理由を知りたがっている。 決して土足ではなく、むしろ懇切丁寧な態度で、瑞希の閉ざしかけていた心に入り込もうとする彼。 優しくて、頑張り屋で、一生懸命な……そんな、どこか親近感を覚えてしまう姿が、目に焼き付く。 彼になら、すべてを打ち明けてしまってもいいのかもしれない。そう思えるくらいに、好感が芽生え始めてもいた。 言葉で事のあらましを語ることはできないが、代わりの筆談という方法のほうが、むしろ心情的には楽でもある。 あのときのことを思い出すとなれば、声を失っていようといなかろうと、たぶん途中で口が開かなくなってしまうだろうから。 徐々に日差しが強くなってきた、午前から午後に移り変わろうかという時刻の、学校の屋上。 姫路瑞希は上条当麻が差し出すペンとメモ用紙に手を添え、そっと受け取った。 順番に、綴っていこう。 彼ならきっと、自分の助けになってくれる。 初対面の相手にこんなことを言うのは恥ずかしいが、上条当麻には、自分が好きな男の子に近い雰囲気を感じるから――。 ◇ ◇ ◇ 昼、学校、屋上にて。 上条は、どうにか事が進展しそうな空気にホッ胸をなで下ろす。 筆談によるコミュニケーションを了解してくれた姫路瑞希は、無地のメモ用紙にペンを走らせていった。 丁寧で丸っこくて小さい、いかにもな女の子の筆跡は、瑞希の存在をより身近なものに感じさせる。 上条は瑞希が綴る文面を追いつつ、彼女がどんな体験を経てここにいるのかを推察していった。 「筑摩小四郎、ねぇ……それが姫路が初めて会った人間ってわけか。 ああ、悪い。俺の知ってる名前ってわけじゃないんだ。 甲賀弦之介、朧、薬師寺天膳、このへんも全然だな。伊賀とか甲賀とかってのもよくわかんねぇし。 でもこの筑摩ってやつはたしか、六時の放送で……いや、すまん。続けてくれ。 んで、姫路と筑摩はその後、二人して温泉に行った……って、温泉!? 温泉に行ったのか!?」 ……コクリ。と瑞希がゆっくり頷いた。 温泉。 温泉といえば上条の出発点であり、北村祐作や千鳥かなめとの合流地点と定めた場所である。 「なら、北村には……会ったのか。ああ、焦んなくていいから。姫路のペースで、ゆっくりでいいから、教えてくれ」 欲していた情報を瑞希が握っているかもしれない。そう予感しても、説明を急かすような真似はしない。 第一に瑞希の精神面を重んじ、無理のない範疇でこれを探っていこうと、上条は自身を諌めた。 「北村に誘われて、か。じゃあ俺のことも……やっぱ、話には聞いてたんだな。 北村の他? 朝倉涼子に、師匠……どっちも知らないな。 と、そういや、俺のことをまだ話してなかったよな。まずはそっから話すわ」 上条は瑞希に、温泉で北村やかなめを交えた話し合いがあったことを教えた。 それは瑞希も知っていたようで、上条とかなめの外見的特徴についてもあらかじめ聞き及んでいたらしい。 「というわけだからまあ、北村が姫路たちに声をかけたのは、俺と千鳥が発ってすぐのことだと思う。 朝倉や師匠って奴のことも知らないし、姫路たちよりも前に声をかけたのがそいつらなんだろうな」 気のせいだろうか。 朝倉涼子の名前を口にするたび、瑞希の身体が小刻みに震えているように見える。 この時点で一つの憶測が頭に宿るも、上条は口にせず、続きを待った。 「姫路と、筑摩と、北村と、そんで朝倉との四人で情報交換か。そのあとが……姫路?」 そこではたりと、瑞希の筆が止まった。 筑摩小四郎と会った、北村祐作と朝倉涼子の二人に会った、四人で話をした、ここまではいい。 だがその先が、綴られない。瑞希が綴ろうとしない。 きゅっと口を閉ざし、目線をじっと紙にやって、ペンを強く握ったまま、硬直してしまっている。 なにか、語りたくないことがあるのは明白だった。 「……話すの、つらいのか?」 上条が訊くと、瑞希はコクリと頷いた。 「あーっとだな。つらいんなら、俺も無理強いはしない。ここで中断ってことで――」 上条の言葉を遮るように、瑞希は首を横に振った。 「そっか。じゃあ、続き書けるか?」 瑞希は、今度は上条の目を見て頷いた。 再びペンを走らせる。その指は明らかに震えていたが、上条は指摘しようとはしなかった。 震える筆跡で、少し歪んだ字が形成されていく。それでも、そのへんの男子学生の字に比べればよっぽど綺麗で上手い。 そして、 「朝倉涼子に……風呂場で、襲われた?」 無地の紙に綴られる、真実。 上条は一瞬、自分の目を疑う。 だが辛辣な瑞希の表情を見て、すぐにこれが冗談でないと知った。 予想もしていたし覚悟もしていた、つもりでいた。 しかし。 姫路瑞希を蝕む恐怖は、上条当麻が考えるよりもずっと、根の深いものなのかもしれない。 ◇ ◇ ◇ 文月学園のクラス振り分け試験の際、高熱でふらふらになりながらペンを握っていたことがある。 あのときのつらさに比べれば、こんなことはなんでもない。 ただありのままに、自分が体験したことをわかりやすく、文面に綴るだけ。 ……だというのに、姫路瑞希の筆の進みは悪かった。 指先がぷるぷると震えるのは、身体が拒み、本能が恐れているから、なのかもしれない。 思い出さなければいけないという重圧。他人に知られてしまうという恐怖。 目の前の壁はあまりにも険しく、立ち向かうのも困難な代物だった。 でも、これを乗り越えないと先には進めない。 それくらいは自分にもわかった。 わかっていたから、あえて挑むんだ。 朝倉涼子が本性を隠し、瑞希たちの信用を得たところで本性を表したということ。 詳細は不明だが、“師匠”という人物が朝倉涼子に協力しているらしいということ。 筑摩小四郎や北村祐作も、おそらくは朝倉涼子と師匠に殺されてしまったということ。 瑞希は、師匠の顔を見たわけではない。 瑞希は、小四郎と北村が殺害される現場を目撃したわけではない。 瑞希は、朝倉涼子と師匠が厳密どういう関係にあるのか知っているわけではない。 この程度の情報でも、誰が危険人物で誰がそうでないかは、容易に推察できる。 上条当麻にもそれは伝わったらしく、メモ用紙に対し憤怒の表情で唸っていた。 やっぱり、彼なら……。 瑞希は意を決し、朝倉涼子に殺人を強要されたことについても綴った。 吉井明久は殺さないでおいてやるから、涼宮ハルヒ以外の人間を殺せ――。 瑞希は朝倉涼子に殺されなかったのではなく、生かされたのだと、そう考えている。 剥がされた爪、傷跡が残る左の中指、朝倉涼子の危険性を示唆する物的証拠。 それは上条の目にも映り、我慢できなくなったのか、憤慨の猛りをあらわにした。 ◇ ◇ ◇ 「許せねぇ……!」 姫路瑞希が文字でもって語る朝倉涼子の狂行に、上条当麻は激しく憤慨した。 善良な素振りで近づき、油断したところで喰らう、まるで羊の皮を被った狼のような所業。 その上ただ喰らうだけでなく、怯える女の子に殺人を強いろうとまでするなど、もはや人ではない。 「北村の名前が呼ばれたときは何事かと思ったけど、そうか……そんなことがあったのか。 姫路はその後、服も着せられずに朝倉に放り出されて、ここまで逃げ延びてきたと。 ん? っていうことは、シャナや櫛枝や木下には会ってない……すれ違いだったのか?」 『黒い壁』に赴く道中で出会った三人のことを思い出し、訊く。 瑞希は驚いた風にハッとし、ペンを走らせていった。 メモ用紙の文面には、『木下って、ひょっとして木下秀吉くんですか?』とあった。 「ああ。実を言うと、姫路のことも木下から少し聞いてたんだ。吉井ってやつのことも。 本人の名前は名簿には載ってなかったけど、そこは北村と同じ扱いってことなんだろう。 櫛枝は北村の友達だったみたいでさ、温泉を出た後に顔を合わせて、すぐに別れたんだ。 だいたい六時前後くらいには温泉についたと思うんだが……そういや、シャナはどうだ? ……知らない、か」 瑞希の反応から、やはりあの三人とはすれ違いになってしまったのだろうかと上条は考える。 となれば、シャナたちが辿り着いたのは必然的に、惨劇の現場だ。 特に櫛枝実乃梨などは、友達の死体を目撃してしまったかもしれない。 彼女たちのこともまた気になるが、今はそれよりもまず、目の前の瑞希である。 「……でも、そうだよな。そんな怖い目にあったんなら、声が出なくなったとしても不思議じゃないよな」 ふと上条が零した発言に、瑞希が首を傾げる。 「いや、最初は『能力』かなんかで声が出なくなってるのかとも思ったんだけどよ。 襲われたときのショックが原因だってんなら、回復の見込みもあるだろうし……そっち方面、詳しくないんだけどな。 にしても、やっぱ許せねぇよ。その朝倉涼子って奴。目的もイマイチ見えてこねぇし、涼宮ハルヒってのはそいつのボスかなんかなのか?」 『クラスメイトみたいです』、と瑞希は書いて教えてくれた。 涼宮ハルヒを生かすために他者を殺害する朝倉涼子。どう考えてもただの女子高生とは思えない。 かなめらとの認識の齟齬から察するに、一概に能力者や魔術師であるとは考えにくいが、はたして何者なのか。 師匠という人物も謎だ。伝え聞いた情報によれば女性らしいが、性別以外の素性が見えない。というかなぜ本名でなく肩書きなのか。誰の師匠なのか。 「……うし。温泉でなにが起こったのかは、だいたい理解できた。 あんがとな、姫路。よく教えてくれた。それと、つらいこと思い出させてごめんな。 慌ただしくて悪いんだけど、俺が知ってることもここでもっと詳しく教えとく。 千鳥のこととか、シャナたちのこととか……それで姫路がなにか気づくこともあるかもしれないしな」 事のあらましを把握した上条は、続いて自身が保有する情報を提示し始める。 瑞希の反応はどこか虚ろだったが、それも声を失っているためだろう……と、上条は大して気にもとめなかった。 ◇ ◇ ◇ ……言えなかった。 一番隠していてはいけないことが、言えなかった。 一番話さなければいけないことが、言えなかった。 勇気が足りない、決心がつかない、打ち明かすのが怖い――コワイ。 声が出なくなってしまった本当の理由。 話の中には出てこなかった、もう一人の登場人物。 姫路瑞希が背負っている罪過。 一生、付き合わなければいけないもの。 一生、目を背け続けたいと思ってしまうもの。 ぬくもり。優しさ。一緒に歩めると期待していた。無言。寡黙。無反応。転落。 拒絶。喪失。失われてしまった存在。無碍に。固まって凍てついて熱くなって。 ぐるりぐるりと回想は巡り、逃げ出した姫路瑞希、困惑と迷走の果てのデジャヴ。 黒桐さん。黒桐幹也さん。死んでしまった人。死なせてしまった人。 声が出なくなってしまったのは、罰。 罪人への罰。 姫路瑞希に対する仕打ち。 黒桐幹也からの。 押し潰されそうだった。 いっそ押し潰されてしまいたかった。 二の舞は嫌だ。二の舞は嫌だ。 助けてとも言えない。 差し伸べられる手は掴む。 これ以上の苦痛は、 これ以上の苦痛は、 温泉に行こう。 これ以上の苦痛は――嫌。 彼の言葉は、口にしてはならない言葉だった。 彼の言葉は、聞いてはいけない言葉だった。 姫路瑞希にとっての、禁句。 あのときの、引き金。 トラウマ。 ◇ ◇ ◇ 「温泉に行こう」 すべての事情を知り、上条当麻はその結論に達した。 「元々、俺も温泉に戻ろうとしてたところだしな。千鳥の奴とも合流しとかねーと。 あとはシャナたちも……時間を考えたらとっくに移動してるかもしれねぇけど、望みはあるだろ。 北村たちもそのまんま、ってわけにはいかねぇだろうし。あー、そういや川嶋はどうすっかな……」 ぶつぶつと口に出しながら、上条は頭の中を整理していく。 考えるべきことは山ほどあった。 まず、温泉のこと。 北村祐作が朝倉涼子、もしくは師匠なる人物に殺された地。 シャナと櫛枝実乃梨と木下秀吉、それに千鳥かなめが向かっていった場所。 危険人物である朝倉が、まだ近辺をうろついていないとも限らない状況である。 朝倉が善良な人間を装うというのであれば、すぐさまその危険性を伝えに走らなければならない。 次に、川嶋亜美のこと。 シャワーを浴びるよう勧められてからかなりの時間が経過したが、彼女はまだ校内に残っているのだろうか。 上条が亜美にしてやれることは少ない、いや、それどころか皆無なのかもしれない。 だからといって、このまま放っておくというのもどうなんだろう。 せめて朝倉の危険性くらいは、彼女にも伝えておかなければ。 それから、インデックスや御坂美琴と白井黒子、土御門元春にステイル=マグヌスのこと。 未だに噂を聞かない、学園都市の出身者たちと魔術師連中。 彼女たちはどこでなにをしているのか。心配にならないと言えば嘘になる。 目先のことで手一杯だから、と棚上げしてられるのはいつまでだろう、と上条は頭を悩ませた。 「……結局、一つ一つあたっていくしかないってのがつらいところだよな」 口から出たのは、弱音ではなく、変わらぬ結論。 気になることは多数、やらなくてはならないことも多数、だが上条当麻はこの身一つ。 様々な苦境を破壊してきた『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の右腕も、この一本きりなのだから。 着実に、一つ一つ解決していくしか道はない。 「お恥ずかしながら、上条さんってのは不器用な男でして。約束すっぽかして千鳥にぶっ飛ばされるのも勘弁願いたく……姫路?」 ふるふる。 瑞希は、首を振っている。 顔を俯かせて、ただ首を横に振っている。 「……温泉行くの、嫌なのか?」 上条が訊いた。 ふるふる、ふるふる。 瑞希は首を振っている。瑞希は首を振っている。 ふるふる、ふるふる、ふるふる、何度も、ふるふる、ふるふると。 上条と目を合わせようとせず、一心不乱に、それしか能がないように、首を振る。 「…………」 首を縦に振ることは、肯定。 首を横に振ることは、否定。 言葉を交わし合えなくとも、これくらいは動作で判別がつく。 瑞希は温泉行きを拒否していた。 「でも、なぁ。千鳥を放ったままってのもあれだし……」 ふるふる。 上条がなにか言葉を発するごとに、瑞希は首を振った。 「いや、わかりますよ。そりゃ、姫路にとってはつらいことかもしんねーけど、だからってこのままここにいても――」 ぎゅっ。 瑞希が急に行動を変えた。 ただ首を横に振るのではなく、上条の体操服の裾を両手で握った。 懇願のポーズだった。 「…………あー」 上条は言葉を失った。 かけるべき言葉が見つからなかった。 説得の仕様がなかった。 どうしようもないほどに悟ってしまった。 姫路瑞希は温泉には行かない。 行こうと思わない。 行きたくても、行けない。 行けない。 (……だよな、そりゃ) 間違っているのは瑞希ではなく、自分のほう。 温泉に行こう――これは上条当麻の失言だった。 ほんの少しの後悔が、上条を唸らせる。 ぱっ。 瑞希が上条の体操服から手を離した。 再びペンを取り、メモ用紙になにかを書き起こす。 『お手洗いに』 簡潔なメッセージに、上条は「ああ」としか言えない。 瑞希は立ち上がり、校舎の中へと消えていく。 そして屋上には、上条だけが残された。 「…………」 一人きりになって、黄昏る。 ◇ ◇ ◇ 屋上から逃げてきた姫路瑞希は、どこに向かうでもなくただ階段を降りていた。 学校。文月学園のそれに比べれば随分とシンプルな、どこか古びた印象すら受ける建造物。 それが妙に懐かしくて、親近感が湧く。廊下を歩くだけで、教室に入るだけで、涙が出そうになった。 偶然にも、『2-F』の教室を見つける。 二年Fクラス。瑞希が在籍していたのもまた、二年Fクラスだった。 ただここの教室は、瑞希が日々勉学に励んでいたFクラスとは似ても似つかない。 机は卓袱台でもみかん箱でもなかったし、床も畳ではない。空調もちゃんと効いている。 とはいえAクラスほどの設備は揃っていない、いたって普通の教室だった。 こんな環境で勉強ができたなら、明久くんあたりは泣いて喜びそうだな、と……。 (明久くん……) 窓際の一番後ろの席。吉井明久の席。 いつも瑞希や島田美波や坂本雄二や土屋康太や木下秀吉が集まっていた席。 楽しくおしゃべりしたり、試召戦争の作戦会議を開いたり、笑い合ったりした席。 (わかってる、はずなのに……) ここには、日常もなにもない。 学校という記号だけを持つ、ただの寂れた建物だ。 瑞希が帰るべき場所、帰りたいと思っている場所は、他にある。 (ここにいたって、なんの解決にもならない……) 停滞はなにも生まない、停滞はなにも育まない、停滞はなにも変えてはくれない。 勉強だってそう。努力するから道が切り開ける。 恋愛だって、同じはず……。 (やっぱり、私は……明久くんに会いたい) クラスメイトである木下秀吉の居場所を聞いても、瑞希の想いは揺らがなかった。 自らが犯してしまった罪は認めるし、いつか償いをしなければならないとも思う。 けれどもやはり、今は。心の安寧を得るためにも、今は。今を生きるためにも、今は。 明久くんに会いたい。 ただそれだけを思って、明久を想う。 明久を想って、しかし身体は動かない。 どこに行ってなにをすればいいのか、未だに答えは浮かんでこなかった。 問。どうすれば吉井明久に会えるでしょう。 答。わかりません。 赤点で落第で補習確定な解答。 成績が優秀なら、人生も優秀というわけではない。 自分が嫌いになってくる。 上条当麻は追いかけては来ない。 このまま消えてしまおうかとさえ思った。 (いつだって、そう) また、ひとりぼっち。 これからも、ひとりぼっち? いつまで、ひとりぼっちなんだろう。 (私は、いつだって明久くんが助けに来てくれるのを待っていただけ) 王子様の助けを待つばかりの、お姫様。 なんて、自朝にもなっていない自嘲。 このまま窓から飛び降りたいくらい。 「……?」 Fクラスの教室から、窓の外の風景を眺める。 校舎の四階に位置しているそこからは、学校周辺の街並みがよく見えた。 なんの変哲もない住宅街、遥か南に聳える『黒い壁』、それよりも気になったのが、窓のすぐ向こうにある校庭。 校庭全面に、“白線の模様”が描かれていた。 イメージしたのは、ナスカの地上絵。 ペルーの高原に描かれているという、世界遺産にも指定された幾何学図形だ。 図のような絵のような、紋章のような魔法陣のような、イタズラのようなメッセージのような……よく、わからない。 おそらくは、体育の授業などに用いるライン引きを使って誰かが描いたのだろう。 が、その目的は皆目見当もつかないし、実行したのが誰なのか、この模様がどういう意味を持つのかも、やっぱりわからない。 それなに不思議と、目を奪われる。 瑞希はしばらくの間、校庭に描かれた模様を眺め続けていた。 (……あ。なんだか、これって) 召喚獣を呼び出すときに出てくる幾何学的な魔法陣に似てるな、なんて思いつつ。 ◇ ◇ ◇ 「……なんでしょうね、あれ」 同時刻、上条当麻も姫路瑞希と同じ風景を、屋上から眺めていた。 校庭に描かれた幾何学的紋様。まさかあれが、生徒作成の即席ランニングコースであるはずがない。 「ライン引きかぁ。おもしろいよな、あれ。小学生のときはあれでよく落書きしたり……って、上条さんはその頃の記憶がねーんですけどもさ」 瑞希を引き止められなくて、なんとなく屋上の端で黄昏てみた、偶然の発見。 くだらないことする奴がいるもんだなぁ、と上条はその程度の感想しか抱かない。 調べてみようという発想にも至らない。ただのイタズラとしか捉えない。 「あいつのルーン……ってわけじゃないよな。はははっ、まさか……出てこねぇだろうな、『魔女狩りの王(イノケンティウス)』」 校庭に足を踏み入れた途端、大炎上――傍にはほくそ笑むステイル=マグヌスが! なんてことになったら笑えない。 あのヘビースモーカーの力は頼れるものがあるが、上条は何度か、標的もろとも消し炭にされかけた覚えがある。 「……一応、近寄らないようにしとくか。姫路にも言っとかねーと」 結局。 いくら考えたところで、この先どうするかという問に対する正答は浮かんでこなかった。 かなめとの約束を破りたくはないが、だからといってあんな状態の瑞希を蔑ろにすることはできない。 温泉行きは断念し、しばらくは瑞希のメンタルケアに努めるべきなのだろう。そう考える。 しかし、それは停滞だ。 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』による『黒い壁』の破壊もままならない現状、いつまでもこうしてはいられない。 インデックスや土御門たちのような魔術に詳しい人間の協力を得られれば、打開への道筋が切り開ける可能性もある。 目先のことばかりに気を取られている場合ではないのかもしれない。大局で捉えればそうに違いない。だが、 「放っておけねぇよなー、やっぱ」 なんだかんだで、上条当麻はここにいる。 屋上から校舎へ、瑞希を迎えに行こうとしている。 それがなによりの答えで、なによりの人間味。 上条当麻とはそういう男であり―― 「そろそろ十二時、かぁ」 ――放送が、近づく。 【E-2/学校・屋上/昼】 【上条当麻@とある魔術の禁書目録】 [状態]:全身に打撲(行動には支障なし) [装備]:御崎高校の体操服(男物)@灼眼のシャナ [道具]:デイパック、支給品一式(不明支給品0~1)、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣、 上条当麻の学校の制服(ドブ臭いにおいつき)@とある魔術の禁書目録 [思考・状況] 基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。 1:姫路を迎えに校舎の中へ。温泉にも行きたいが、彼女を放ってはおけない。 2:温泉に向かう。かなめや先に温泉に向かったシャナ達とも合流したい。 3:インデックスを最優先に御坂と黒子を探す。土御門とステイルは後回し。 4:教会下の墓地をもう一度探索したい。 [備考] ※教会下の墓地に何かあると考えています。 【E-2/学校・校舎内/昼】 【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】 [状態]:左中指と薬指の爪剥離、失声症 [装備]:御崎高校の体操服(女物)@灼眼のシャナ、黒桐幹也の上着、ウサギの髪留め@バカとテストと召喚獣 (注:下着なし) [道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2 ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品1~2個 [思考・状況] 基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。 0:明久くん……明久くんに会いたい……。 1:……やっぱり、温泉には行きたくない。 2:朝倉涼子に恐怖。 3:明久に会いたい。 投下順に読む 前:街角にて ― Alternative ― 次:第二回放送――(1日目正午) 時系列順に読む 前:街角にて ― Alternative ― 次:第二回放送――(1日目正午) 前:おそうじのじかん/ウサギとブルマと握られた拳 上条当麻 次:ラスト・エスコート2 前:おそうじのじかん/ウサギとブルマと握られた拳 姫路瑞希 次:ラスト・エスコート2